時計産業の中心地、スイスが誇る高級腕時計ブランド10選
高級腕時計と言えばスイス。その時計産業の成り立ちと強さの秘密に迫りながら、押さえておきたい10ブランドを解説していきます。なぜスイスに高級腕時計ブランドが集まるのか
スイスの時計産業の萌芽は16世紀の宗教革命にまでさかのぼります。高い技術力を持った新教徒の時計職人が弾圧され、スイスに亡命してきたのです。精密機械の製造に必要な豊かな自然ときれいな水に恵まれた同国で時計産業は花開き、19世紀末には現代的な生産体制を整えて覇権を握ります。そんなスイス時計は、実用重視のドイツ時計やミニマルな北欧時計に比べ、伝統的デザインを守り続けているのが持ち味。1970~80年代には、クォーツ時計を量産した日本勢に押され低迷したものの、果敢な業界再編と高級感を高めるブランディングによって見事に復活。現在では、全世界の時計売上高のうち、50%以上をスイス時計が占めるまでになっています。
高級腕時計においてスイスが傑出している3つの理由
高級腕時計の世界で圧倒的な存在感をみせるスイス。その強さの源泉には、400年以上に渡って職人に受け継がれた技術の蓄積と、日本発の技術に敗れた苦い経験から編み出した、したたかな戦略があるんです。ここでスイス時計の強さを読み解いていきましょう。
理由1
数百年にわたる時計産業を支えてきた、職人たちがいる
機械式ムーブメントを搭載する高級腕時計の製作は名人芸の成せる技。職人のクオリティが即信頼につながるのです。スイスには、1824年に開校したジュネーブ時計学校や、ウォッチメーカーの協賛で作られたウォステップ(訓練教育プログラム )をはじめ、数多くの時計職人育成機関が存在し、高度な技術を次世代につなげています。工作機械が発達し、高度な加工が機械でできてしまう現代でも、ハンドメイドにこだわるのがスイスブランドの魅力のひとつと言えます。
理由2
クォーツショックを乗り越え、ブランドイメージを維持した
1969年にセイコーが安く大量生産できるクォーツ式時計を世界で初めて発表すると、スイス時計は大ダメージを受けました。この危機に、スイスの時計業界はブランドを再編して合理化を図るとともに、歴史的なブランドネームを続々と復活させ、腕時計をステータス性の高い嗜好として売るという戦略に出ます。最新電子技術との直接対決を避け伝統回帰するこの戦略は大当たり。スイス時計=伝統的=高級という認識は世界中でますます強くなったのです。
理由3
優れたムーブメント供給メーカーが存在する
ほぼすべてと言っていいほど、スイスの高級腕時計には動力にゼンマイを使った機械式ムーブメントが搭載されています。電池を使うクォーツ式に比べアナログに思えますが、長い歴史を感じさせ、職人技が必要な機械式は、腕時計のステータスを高めるのにうってつけなのです。この機械式ムーブメントの製造で圧倒的に強いのがスイス。ミニッツリピーターやトゥールビヨンなど、複雑な機構はスイス高級腕時計のお家芸になっています。
スイスが世界に誇る名門腕時計ブランド10選
ブランド1
『オメガ』
日本でも圧倒的な知名度を誇る『オメガ』。その誕生は1848年。時計師のルイ・ブラン氏によって設立されました。以降150年以上にも渡って時計界をリードするスイスを代表するビッグネームです。オリンピックのオフィシャルタイムキーパーとしても有名ですね。代表モデルにはダイバーズウォッチのシーマスター、ドレスモデルのコンステレーションが挙げられます。そして『オメガ』の象徴といえるのが、昨年誕生60周年を迎えたスピードマスター。アメリカ航空宇宙局(NASA)の厳しい試験に耐え、1969年には月面に初めて降り立った腕時計として、歴史にその名を刻みました。
ブランド2
『IWC』
創業者はアメリカ人のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズ氏。スイス・シャフハウゼンに1868に誕生したブランドです。シャフハウゼンはドイツ語圏のため、ドイツの質実剛健さとスイスのエレガントさの融合こそが同ブランドの特徴。創業当初から精度の高さに定評があり、時刻の正確さが要求されるパイロットウォッチの先駆者としても有名で、パイロット・ウォッチというモデルは1936年にオリジナルが登場し、現在も人気です。航空機のコックピットから発生する磁力をシャットダウンする耐磁インナーケースをケースに収納するなど、男心をくすぐる仕様も魅力。
ブランド3
『ジャガー・ルクルト』
1833年、アントワープ・ルクルト氏が時計の聖地スイス・ジュウ渓谷に設立しました。技術力の高さに定評があり、取得した特許の数はなんと200以上にも及ぶことから、優れたムーブメントメーカーとしても知られています。代表作は角型デザインが特徴のレベルソ。なんとこのレベルソ、文字盤が反転するんです。1930年代初頭に、インド在住のイギリス人将校がポロの試合中に着けられる時計を発注したのがこの機構の由来。時計を反転すると、強固な裏ブタが表になり、文字盤を守るのです。以降、このレベルソは『ジャガー・ルクルト』のアイコンモデルとして親しまれています。
ブランド4
『ブライトリング』
スイス山間の街、サンティエミにレオン・ブライトリング氏が時計工房を開いたのが始まりです。その製品は「プロのための計器」を標ぼうし、とくに航空業界では圧倒的な知名度を誇ります。飛行機レース「レッドブル・エアレース」のチャンピオン室屋義秀をサポートもしていることでも有名ですね。代表作はやはり航空業界に馴染みの深いナビタイマー。1952年に登場したこのモデルは、航空計算尺付きクロノグラフを世界で初めて搭載しました。パイロットは腕元で速度や燃費を計算できるようになったのです。航空機のハイテク化により自ら計算する必要のない現代でも、航空時計のアイコンとしてパイロットから絶大な人気を博しています。
ブランド5
『タグ・ホイヤー』
1860年に産声を上げたタグ・ホイヤー。高い計測技術に定評がありモーターレーシングと深い関わりを持つことでも有名です。1887年には以降のストップウォッチの基幹技術となる「振動ピニオン」を開発、特許を取得。1917年には世界で初めて1/100秒まで、1966年には1/1000秒まで計測できるマイクロタイマーを発表するなど、計測技術をリードしてきました。カレラは『タグ・ホイヤー』とモーターレーシング界のつながりを語るうえで外せないモデル。モデル名もカーレース「カレラ・パンアメリカーナ・メキシコ」から取られています。プロドライバーが見やすいように視認性を徹底的に追求した文字盤は普段使いでも重宝するはずです。
ブランド6
『オーデマ・ピゲ』
創設者はジュール=ルイ・オーデマ氏とエドワール=オーギュスト・ピゲ氏のふたり。1875年に設立されました。当初から複雑時計の制作に取り組み、ミニッツリピーターや永久カレンダーを搭載した「グランドコンプリカシオン」や、ジャンピングアワー機構を備えた腕時計で名を馳せました。現在の『オーデマ・ピゲ』を象徴するモデルはなんと言っても天才時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタ氏がデザインしたロイヤルオークでしょう。1972年に登場したこのモデルは、8角形のビス打ちベゼルが特徴で、ラグジュアリーでありながらスポーティな印象。世界中のセレブに瞬く間に評判になり、『オーデマ・ピゲ』の代表モデルとなりました。
ブランド7
『ロレックス』
全世界で最高の知名度を誇る高級時計ブランドが『ロレックス』。数百年の歴史を持つブランドが多数存在するスイスでは、会社の設立が1905年というのは新参ブランドにあたります。『ロレックス』の功績は、宝飾品として扱われていた腕時計を実用品に置き換えたことです。実用的な精度、防水性、自動巻き機構は『ロレックス』が作り出しました。防水時計サブマリーナー、クロノグラフのデイトナなど、傑作を多数発表していますが、最初の1本として押さえておくべきモデルは、エクスプローラーⅠでしょう。探検家向けに開発されたためとにかくタフ、ルックスも着ける人を選ばないシンプルさが際立ちます。
ブランド8
『パテック フィリップ』
腕時計の上がりと言われているのが『パテック フィリップ』。つまり最高峰のブランドな訳です。始まりは1839年、アントワーヌ・ド・パテック氏とフランソワ・チャペック氏によって創業されました。エレガントなデザインと優れた技術力が融合した傑作は王侯貴族や文化人をとりこに。現在でもウン千万円する超高級時計を発売していますが、頑張れば買えるかもしれない代表モデルとしてカラトラバを紹介しましょう。1932年に登場したこのマスターピースはシンプルデザインの最高峰として多くのフォロワーを生み出しました。時間を知るという時計の基本を完璧に押さえ、現行モデルでも初代のエッセンスに基づいた傑作を楽しむことができます。
ブランド9
『ロンジン』
1832年、オーギュスト・アガシ氏がスイス・サンティエミに設立しました。その後1929年までに万国博覧会でグランプリを10回も獲得するなど、技術力の高さを見せつけます。1919年には国際航空連盟に公式認定を受け、航空機の運行に多大な貢献をしました。ちなみに1927年にチャールズ・リンドバーク氏が大西洋単独無着陸横断飛行を成功させた際に計測を担当したのも『ロンジン』なんです。100万円オーバーは当たり前のスイス高級時計の中にあって、10万円台のモデルもラインアップし、お気軽プライスで買えるのも魅力のひとつです。クロノグラフとともに発展してきた『ロンジン』の歴史に思いをはせ、最初の1本はクロノグラフを選ぶのも一興ですね。
ブランド10
『ブレゲ』
時計の歴史を200年は早めた男。『ブレゲ』の創始者アブラアン・ルイ・ブレゲ氏について語るとき、必ず言及される言葉です。革新的な自動巻き機構、パラシュート機構、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨンなど、時計史に刻まれるさまざまな技術を発明したのがブレゲなのです。フランス王妃マリー・アントワネットに発注を受けた超複雑時計も有名ですね。創業は1775年、時計ブランドとしてはたびたびオーナーが変わるなど紆余曲折がありましたが、現在は高級ブランドとして完全復活。アブラアン・ルイ・ブレゲ氏が生み出した発明やデザイン言語を踏襲しながら、クラシカルなルックスと最新技術を融合した傑作を多数生み出しています。
海外での取材経験も多数。時計専門ライター
夏目 文寛
出版社勤務時にはファッション誌、モノ情報誌の編集を15年にわたって従事。各雑誌で編集長を歴任し、2017年よりフリーのleather bagに。男の嗜好品に詳しく、特に腕時計は機械式の本場スイスをはじめとするヨーロッパに何度も取材に行くほど情熱を傾けている。興味のない人にもわかりやすく!がモットー。