最高の実用靴。チロリアンシューズは大人のカジュアルに欠かせない
チロル地方の高原で働く牧童が履いていた靴を原型に作られたチロリアンシューズ。トラッドからカジュアルまで幅広い着こなしにマッチする、この靴の秘密を解説いたします。タフさにも納得。チロリアンシューズの原型は、山で生きる人々の作業靴
チロリアンシューズは、傾斜が多く冬には雪で閉ざされるアルプス山脈のチロル地方で、牧童たちが羊の放牧の際に履いていた靴が原型とされています。そのため、チャッカタイプのモカシンという仕立てやすいアッパーのデザインでありつつ、ノルウェイジャンウェルト製法など登山靴にも使われる堅牢で防水性に優れた製法を採用しているのがベーシックなチロリアンシューズのスタイル。また、ソールもグリップ性に優れたラグソール系を採用することが多く、そのカントリーライクな素朴さのある顔立ちとぽってりとしたボリューム感から、メンズとレディースともに人気の靴でもあります。
だから、長く愛せる。チロリアンシューズに欠かせない、3つの特徴
現在では製法やデザインにアレンジを加えたチロリアンシューズもたくさんリリースされていますが、「ノルウェイジャン製法で底付けされたモカシンタイプのチャッカ」という定義がチロリアンシューズの本流。ここでは、なぜチロリアンシューズがこれらの仕様を取り入れているかについて解説します。
特徴1
袋状に縫われた“被せモカ”が、防水性と快適な履き心地を約束
モカシンの中でも“被せモカ”という構造を採用しているのがチロリアンシューズの特徴。被せモカとはアッパーの甲革を覆うように施されたモカ縫いのことで、縫い目から水の侵入が起こりにくいのが最大の特徴。“スキンステッチ”や“拝みモカ”と比べてカジュアルで武骨なルックスに仕上がりつつ、見た目通り非常に堅牢です。履き込んだ際も、モカ縫いの宿命ともいえる屈曲部の割れが起こりにくく、タフに使うことが可能です。
特徴2
実はメリット。粗めのステッチが高める、チロリアンシューズの耐久性
ドレスシューズの場合はステッチを極力細かくエレガントに仕上げるものですが、もともと分厚い革を使用して仕立てるチロリアンシューズにはその方法は馴染みません。そのため、ワークブーツに使用される太番手の糸を使用しつつ、ピッチ幅も大きく取って縫い込み、クッキリとした目鼻立ちを実現しています。また、水分は縫い目を通して靴内部に浸透するもの。縫い目が少なければ少ないほど、防水性が高まることは言うまでもありません。
特徴3
頑丈さは正義。チロリアンシューズに欠かせない、タフネス溢れるソール
山岳地方で発達した靴ゆえに、アウトドアユースを想定したビブラムの#430をはじめとしたラグソールを装着しているのもチロリアンシューズの特徴。本格的なチロリアンシューズではソールの底付けもノルウェイジャンウェルト製法という頑強な製法が採用されており、ソールの縫い目からの浸水を効果的にシャットアウトします。ちなみにノルウェイジャンウェルト製法は完全な機械化が難しく、非常に手間のかかるもの。しかしソール交換が可能で防水性に優れることから、現在でもクラシックな登山靴などに採用されています。
履けば即、こなれる。チロリアンシューズを取り入れた着こなし3点
牧童の作業靴であり、貴族の狩猟用靴でもあったチロリアンシューズは、トラッドからカジュアルまでさまざまなコーディネートに活躍してくれる万能選手。オンタイムに取り入れればボリューム感あるルックスが程良くドレスダウン効果をもたらし、カジュアルに取り入れればクラシックな品の良さがコーディネートをカジュアルアップしてくれるはず。また、カントリー&アウトドアのエッセンスを加味してくれるのもチロリアンシューズの魅力です。
コーデ1
シンプルスタイルの格上げにはもってこい
その存在感の強さから、シャツにスラックスを合わせたミニマルな着こなしのポイント作りに好適。しかしあくまで革靴なので、スニーカーのように着こなしがライトになりすぎることもありません。清潔感は保ちつつスタイルの要にもなってくれるのは、チロリアンシューズならではのメリットといえるでしょう。
コーデ2
ジャケットスタイルにも、チロリアンシューズはベストマッチ
チロリアンシューズなら、春夏はコットンスーツ、秋冬はツイードといったカジュアルな素材のセットアップとのマッチングも良好。堅牢で作りの良い革靴は、クリーンな装いにもよく似合います。一方、プレーントゥに比べてボリュームがあるため着こなしのアクセントとしても有用です。
コーデ3
デニムが主役のスタイルにも、自然な品格が宿る
デニムのカバーオールにスラックスを合わせた、大人のアメカジスタイル。カバーオールのタフさとスラックスのクリーンさ、その両方に訴求できるのがチロリアンシューズというわけです。ウェリントンメガネを合わせたクラシックなスタイルには、抜群にフィットします。
バリエーション豊富。チロリアンシューズの名品9選
一生モノになり得るほどの頑丈な作りがチロリアンシューズの魅力。これから長い付き合いになるのですから、しっかりと取捨選択をしたうえで、これぞという1足を選びたいところ。ここでは定番&名品から手に取りやすいリーズナブルなアイテムまで、注目のチロリアンシューズをご紹介します。
1足目
『パラブーツ』ミカエル
チロリアン界の殿堂入りシューズともいえるのが『パラブーツ』の「ミカエル」。リスレザーというブランド独自の革は肉厚でたっぷりとワックスを含んでおり、寒いときには表面にブルームという蝋の膜が張るほど。もちろん防水性も抜群。オリジナルで製造されたソールを採用し、ノルウェイジャンウェルト製法で底付けされています。
2足目
『パラブーツ』ミカエル ブリット
ローファー感覚で履きこなせる、「ミカエル」のモンクストラップバージョンがこちら。アッパーにファーを使ったモデルはレディースでも人気のアイテムです。かつては防水性に優れたアザラシの革が使われていましたが、いまやアザラシの革は入手困難に。現在では装飾的な意味合いが強いラビットファーやポニーが使われています。
3足目
『クレマン』パドレ
本国のフランスでは軍や消防署にも納入される『クレマン』のチロリアンシューズ。ラフな甲革のピンキングやヒールカウンター部分の切り替えなど、独自のデザインとリーズナブルな価格帯が魅力です。アッパーとソールを圧着するセメント製法のためオールソール交換はできませんが、そのぶん防水性にも優れています。
4足目
『ダナー』セルウッド
アメリカのトレッキングブーツメーカーである『ダナー』も高品質なチロリアンシューズをリリースしています。「ダナーライト」や「マウンテンライト」と同じく、EVAフォームを挟んでクレッターリフトソールを装着。かつて『ダナー』が製造していたチロリアンシューズの資料をもとに、ホーウィン社のクロムエクセルを用いて北陸の工場で仕上げている日本企画のアイテムです。
5足目
『メフィスト』ペッポ
最高品質のウォーキングシューズとして名高い『メフィスト』もチロリアンシューズを製造しています。一般的にノルウェイジャンウェルト製法のチロリアンシューズはソールが堅く、足の返りが良くないものですが『メフィスト』に限ってはその心配は無用。ソールに採用したストエアーテクノリジーが歩行による全身の負担を軽減してくれます。
6足目
『スカルパ』ガルミッシュ
1938年に登山靴製造の本場であるイタリアで創業した『スカルパ』。こちらの1足も同ブランドの登山靴と同様にオイルがしっかりと含浸されたワッサーレザーを使用、ソールにはイタリアビブラムの#1147を採用しています。また、アッパーとミッドソールを縫い合わせることで、リソールしても剛性が落ちにくくしたロッチャ構造による底付けもここならでは。長く愛用できる1足に仕上がっています。
7足目
『ヤマチョウメイド』チロリアンシューズ
紳士靴の老舗『三陽山長』が新しく立ち上げたラインから登場した新作。伝統的なチロリアンシューズのデザインを踏襲しつつ、全体的に軽快に仕上げて街使いの空気もプラス。また、オフホワイト1色であつらえつつ、ビブラムのモアフレックスソールを採用することで見た目も履き心地もスニーカーライクな一面を獲得しています。
8足目
『ロックポート』ピアソン 2アイ タイ
アメリカが誇るウォーキングシューズメーカー『ロックポート』のチロリアンシューズは片足約390gと抜群の軽さが魅力。ヒール部分には特殊なクッション材を封入しており、歩行時の衝撃を吸収してくれます。履き口にも中綿を入れてあるため、靴擦れの心配なく履くことが可能です。
9足目
『マルモラーダ』エレファント グリジオ
イタリアの紳士靴メーカー『フラッテリジャコメッティ』の登山靴ラインである『マルモラーダ』のチロリアンシューズはアッパーのレザーに希少な象革を使用。堅牢かつイタリア系の高級ドレスシューズにも使われるノルベジェーゼ製法を採用しており、出し縫い部分のチェーンステッチが装飾性をプラスしています。
アメカジ&アメトラを中心にラギッドな視点で解説
那珂川廣太
バイク専門誌と男性向けライフスタイル誌で編集を約8年務めたのちに独立。ファッションはアメリカンカジュアルからトラッドまで幅広く執筆を行い、特にブーツやレザー、ジーンズ、古着など男臭いアイテムの知識が豊富。また乗り物やインテリア、フードまでライフスタイル全般にわたって「ラギッド」を切り口に執筆する。
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